タバコは「火が消えた後も」延々と有害物質を放出し続けている、非喫煙者がさらされるニコチンは現行の推定値の2倍
健康志向の高まりに伴う喫煙率の低下により、火がついたタバコを見る機会は減りつつありますが、吸い殻は道ばたなどでたまに見かけます。そんな中、2100本ものタバコを燃焼させる実験により、「火が消えて煙が出なくなったタバコの吸い殻でも、数日間にわたって有害物質を放出しつづける」ことが判明しました。
喫煙者が能動喫煙で吸い込んでいる主流煙や、火がついた先端から立ち上る副流煙にはさまざまな有害物質が存在し、受動喫煙でさえ健康を害することが知られています。しかし、火が消えた後の吸い殻については、環境汚染の観点からの研究がほとんどで、人体や健康に焦点を当てた研究は行われてきませんでした。
そこで、アメリカ国立標準技術研究所から「吸い殻が健康に与える影響」についての調査を依頼された環境工学研究者のダスティン・ポッペンディエック氏は、実際の喫煙と同じ条件でタバコを燃焼させる「喫煙マシン」を開発しました。
そして、火が消えたタバコを測定装置の中に入れて、吸い殻から放出される化学物質を測定しました。
しかし、アメリカ食品医薬品局(FDA)により「タバコに含まれる有害または潜在的に有害な物質リスト」に指定されている物質は90種類以上あるため、その全てを測定することはできません。そこで、ポッペンディエック氏らの研究チームは、特にニコチンとタバコのフィルターに使用されているトリアセチンに注目しました。
ポッペンディエック氏によると、トリアセチン自体は有害物質ではないものの、揮発性が低く常温では気化しないため、吸い殻からの長期的な物質の放出を測る上で最適な指標だとのこと。
実験の結果が以下の図で、左がトリアセチン、右がニコチンのグラフです。グラフの横軸は1時間単位の経過時間で、縦軸は化学物質の濃度を表しています。実験時間中ずっと吸い殻を測定器に入れたままにした実験結果を表す青い「■」と赤い「●」を見ると、100時間上にわたって化学物質が放出され続けていることが分かります。また、緑色の破線で示される実験開始後28.6時間の時点で吸い殻を取り出した緑色の「▲」でも、他の実験より少ないものの化学物質が検出される結果となりました。
ポッペンディエック氏はこの実験結果から「多くの化学物質は火が消えた後の24時間で放出されました。例えば、火が消えた後24時間で放出されたニコチンの量は、火が点いている間に放出される量の最大14%に相当します。さらに、ニコチンとトリアセチンが放出される濃度は、火を消してから5日後でも火が消えた直後の約50%に近い濃度だということも分かりました」と述べました。
さらにポッペンディエック氏は「火を消した後の一週間で吸い殻から放出されるニコチンの量は、喫煙中に発生する主流煙と副流煙の合計に匹敵する可能性があります。これは、家庭にある灰皿に吸い殻が放置されている場合、非喫煙者が曝露ばくろするニコチンの量が、2020年時点で推定されている値の2倍に跳ね上がるおそれがあることを意味しています」と述べました。
研究チームの実験結果によると、吸い殻から有害物質を発生させない唯一の方法は「砂が敷き詰められたガラス製もしくは金属製の密閉容器に入れること」だとのこと。
ポッペンディエック氏は「子どもを乗せてドライブしている最中はタバコを我慢するという人がいるかもしれませんが、高温になる車内の灰皿がタバコの吸い殻でいっぱいになっているのなら、既に曝露は発生しています。また、吸い殻が無害になるには何年もかかるので、吸い殻を窓から投げ捨てるのも御法度です」と述べて、吸い殻を適切かつ速やかに処分する必要性があることを指摘しました。