「たばこ全面禁止」にするニュージーランドの思惑
値上げは限界、今後は販売そのものを禁止へ
ニュージーランド政府は12月9日、紙巻きたばこの国内販売を段階的に全面禁止とする計画を発表した。数十年間をかけて若者に喫煙を始めさせないようにする世界でもめずらしい取り組みだ。
2022年の法制化が予定されるこの法案は現在の喫煙者のたばこ購入を禁じるものではないが、喫煙可能な年齢を毎年引き上げることで最終的に全人口を禁止対象とする。
今の若年層は一生たばこを買えない
2023年からは15歳未満のたばこ購入が生涯にわたって禁じられる見通しだ。そのため、例えば2050年には42歳以上の人々しかたばこを購入できなくなる。
「若者が絶対に喫煙を始めないようにしたい。そのため、新たな若年層へのたばこの販売と供給を違法とする」。アイシャ・ヴァーラル副保健相は9日、議会でこのように語った。「法律の施行時点で14歳の人々は、その後(年齢が上がって)も合法的にたばこを買うことはできなくなる」。
ニュージーランド政府は喫煙率を2025年までに5%未満に引き下げることを目指しており、そのための措置を9日に複数発表。今回の法案はその一環を成す。国全体の喫煙率は現在10%弱だが、比較的貧しい先住民マオリや太平洋諸島の住民の喫煙率はこれを大きく上回る。
この目標を政府が初めて打ち出したのは2011年。以来、たばこの価格は徐々に引き上げられ、今では世界で最も高い部類となっている。たばこ1箱の価格は約30ニュージーランドドルと、米ドルで20ドル強に相当。賃金水準がかなり高い隣国オーストラリアに次ぐ第2位となっている。
ヴァーラル氏によると、政府はこれ以上の値上げは検討していない。「たばこ税引き上げの効果はすでに限界に達している」とヴァーラル氏は語った。「これ以上値上げを進めても禁煙の助けとはならない。この習慣を断ちきれずに苦しんでいる喫煙者をさらに苦しめるだけだ」。
たばこ販売の禁止は、健康上明らかなメリットがあるにもかかわらず、世界的にはほぼ実現不可能な政策となっている。議論になることが多いのは、主に市民の自由や密売増加に対する懸念だ。ヒマラヤの王国ブータンは2010年にたばこの販売を禁止したが、密売人が持ち込む新型コロナウイルスへの懸念から昨年、禁止規定が一時的に解除された。
たばこ販売の禁止によって闇取引が広がる可能性のあることはニュージーランド政府も認めている。闇市場におけるたばこ販売は、現状でも全体の少なくとも10%に達している。
政府によると、たばこ製品の密輸入は増加し続けており、中でも組織犯罪グループによるものが目立つという。政府の提案書には「本文書で提案された変更は、この問題を悪化させる可能性がある」と記されている。
喫煙率自体は大きく低下している
しかしオークランド大学のロバート・ビーグルホール医学名誉教授は、解決策となりうる方法があると話す。「この国に入ってくるコンテナをすべて調べれば対処できる。そうしたことは行われていないが、そのための技術はある」。
政府が喫煙率引き下げの目標を掲げてから、ニュージーランドの喫煙率は世界平均を大幅に下回るようになった。同国の喫煙率は現在9.4%で、2008年の18%から大きく低下している。これに対しアメリカの喫煙率は約14%、世界全体では約20%となっている。
ただし、ニュージーランドの喫煙率は住民によってばらつきがある。ヨーロッパ系住民では「2025年までに5%未満」の目標を達成できそうだが、マオリや太平洋諸島の住民の喫煙率を十分に引き下げるには計画を調整する必要があるとヴァーラル氏は述べた。
今回提案された立法措置には、たばこ販売の段階的な禁止に加え、依存症ケアの予算増、たばこを販売できる場所の制限、製品のニコチン含有量の引き下げも含まれる。政府が比較的安全な代替品として受け入れている電子たばこは、法案の対象外とされた。
法案は、どのようにして販売を禁止していくのかには言及していない。
ニュージーランド議会は首相の率いる与党・労働党が絶対過半数を制しているため、連立パートナーの支援がなくても法案を成立させられる状況にある。
オークランド大学の公衆衛生専門家ジャネット・ホーク氏は、ニュージーランドの今回の計画に触発されて、他国でも同様に野心的な立法措置が進むことを期待していると話す。世界保健機関(WHO)は今世紀中に10億人が喫煙関連の原因で死亡すると推計している。「ニュージーランドで始まるこの取り組みには、実は世界的な意味がある」と同氏は言う。
(執筆:Natasha Frost記者)
(C)2021 The New York Times Company